集合写真における目つむりのない集合写真を撮る方法について
- 内堀
- 2020年5月14日
- 読了時間: 6分
ウチボリフォト
内堀航太
1.序論
集合写真を撮影したときに、多くの場合一人以上が瞬きにより目をつむっている事が経験的に分かっている。また、人数が少ない場合は多い場合より瞬きをしている人数が相対的に減るため、比較的目つむりのない写真が撮れる確率が高いと考えられる。そこで、今回、人間の目つむりのメカニズムと撮影条件の変化に伴う適正撮影枚数を算出することを目的とした。
2.方法
2.1 一人当たりの瞬きの回数
大阪大学と京都大学の研究グループの論文(※1)によると喫煙習慣のないアジアの健康な若者104人(男性53人、女性51人、20〜31歳)に対して実験を行った結果、以下の事がわかった。
1.瞬きのしやすさはDNAの型によりCC・CT・TTの3つに分類することができた
2.CT型とTT型の瞬きのしやすさはほぼ同じであり、CC型とCT&TT型の2グループに 分けて考えることができ、その比率はCC:CT&TT=55:45である
3.安静時とTVを見ている時では瞬きの安静時の方が多くなる
4.TV視聴中のCC型の瞬き平均回数は16.7回/min、CT・TT型は21.7回/minであった
これらの事から、集合写真において、カメラマンが被写体に対してTV視聴中と同程度 の集中させることができたと仮定すると
16.7×0.55+21.7×0.45=18.95≒19.0 ・・・式2.1
よって、一人当たり19回/minということが分かった。
2.2 瞬きの時間
瞬きには、自らの意思で行う随意瞬目(しゅんもく)、自然に行う自然瞬目、光や音や物質が飛んでくるなどに対して反射的に起こる反射瞬目の3種類が存在する。それぞれ、瞬きの速度が異なるとされているが、今回自然に行う瞬きの時間について調べたところ、約0.3秒とされている。
2.1より1分間に19回瞬きをした時のトータルの時間を計算すると
19×0.3=5.7 ・・・式2.2
となり、1分間のうち5.7秒は目をつむっていることになる。
2.3 目をつむる確率
2.2より
5.7÷60×100=9.5 ・・・式2.3
よって、人は9.5%の確率で目を閉じていることが分かる。
一人を写真に撮るときランダムに撮影した場合おおよそ10枚に1枚は目をつむっている ことになる。
2.4 複数人数の全員が目を開けている写真が撮れる確率
集合写真で、全員が目を開けている確率をXo、集合写真に写る人数をnとしたとき
Xo=(1-0.095)^n×100 ・・・式2.4
とあらわすことができる。ただし、式2.4では目を開けている確率はわかるが、目を開け ている写真が撮れる確率は表せていない。なぜなら、シャッター速度の変数が足りていな い為である。そこで、シャッター速度をS(秒)とし、全員が目を開けている写真が撮れる確 率をYとしたとき下記の式となる。
Y(n)=(1-0.095-S)^n×100 ・・・式2.4.1
例えば、10人の集合写真をシャッター速度1/100で撮影した場合
Y(10)=(1-0.095-0.01)^10×100
=32.978
A. 32.98%
よって、およそ3割の確率で全員が目を開けている写真が撮れることがわかる。
「だから、目をつむってる写真でもしょうがないよね」では意味がない。そこで、何枚撮影すると確実に全員が目を開けている写真が撮れるが考察する必要がある。
2.5 集合写真に必要な撮影枚数
必要な撮影枚数を算出するにあたり、100%目を開けている写真が撮れる枚数というのは 存在しない。これは、確率の問題なので、1万枚撮ろうが1億枚撮ろうが有限である限り 100%に限りなく近づくが100%にはならない。そこで、妥協点を決めておく必要がある、 例えば、そんなに目つむりが重要ではない様な、旅行先での友人たちとの撮影であれば 50%以上の確率でも良いかもしれないし、絶対に失敗できない企業の重役を集めた撮影で あれば95%は欲しいと思うかもしれない。ただし、この確率を上げれば上げるほど必要な 撮影枚数は増える、よって、企業の重役を集めて20枚も30枚も撮影することは現実的で はないことも合わせて付け加えておく。
撮影人数をn、欲しい割合をR、必要撮影枚数をZとすると
1-(1-(1-0.095-S)^n)^z≧R
と表せ、Zについて解くと
-(1-(1-0.095-S)^n)^z≧R-1
(1-(1-0.095-S)^n)^z≦1-R
Z≧log(1-(1-0.095-S)^n)(1-R)
Z≧ln(1-R)/ln(1-(1-0.095-S)^n)
一例として下記の条件の場合の人数と必要撮影枚数の関係を表すグラフを示す
条件
シャッター速度S:1/100(秒)
欲しい割合R:0.8(80%)

因みに
10人の時、4枚
20人の時、14枚
30人の時、44枚
40人の時、135枚
である。
3.考察
そもそも、この研究は2006年のイグノーベル賞を受賞したNic SvensonとPiers Barnes によるBlink-free Photos, Guaranteed(※2)という論文がもとになっている。内容もそのまま 訳すと「グループで写真撮影をしたときに,誰もが目を閉じていない写真をとるために必要な撮影数の研 究」であるが、読んでも最終的な式は
必要枚数=1/(1-xt)^n
x:瞬きの回数
t:ダメな写真が撮れる時間※
n:人数
※おそらく瞬きの時間とシャッター速度によるもの
と、かなり簡易的な表記の仕方だった。要するに計算しようと思えばできますよ、という ことを言いたかったのではないだろうか。しかもこれは、99%の確率の時を想定している うえに、最終的には20人未満ならシャッター速度が速ければ3で遅ければ2で人数を割っ たら近い値が出るとまで言っている。かなりおおざっぱな結論になっている。
また、この論文と合わせて、様々な計算式をまとめた「keisan」(※3)というサイトに「瞬き 無しの集合写真」というページがある。このページを使えば今回検証しようとした式がそ のまま使えると思ったが、前提となっている瞬きの時間当たりの回数と一回の時間が、私 の調べたものと異なり、おおよそ確率的に半分以下に設定されていた。そこから、人数と 撮影枚数が指数関数で効いてくるので、このサイトの結果と大きく異なるデータとなった。
また、私が間違えている可能性が高いのだが、そのサイトの一人が瞬きをする確率の算 出方法が微妙に異なる。どうも、サイトの算出方法に納得がいかないので独自の計算方法 になってしまっている。そのため、非常にシビアな結果となった。
要するに、20人以上の集合写真で全員の目が開いていたら確率としてはとても珍し事だ と思ってもらえればいい。
目つむりのない集合写真を撮る為の必要枚数は確率から算出することはできるが、現実 的な枚数にはならなかった。また、人間が瞬きする要因の一つに「緊張」することがある、 そして、スマホやゲームなど画面を注視するような行為はドライアイの原因になくほど瞬 きが少なくなる。よって「緊張」はさせず、リラックスした状態で「集中」させる必要が あり、ここにカメラマンの技量にかかわってくると考えられる。そこで、ゲーム性を加え る事を提案したい。最も単純な方法としては「1+1は?」これは昔から言われている掛 け声であるが、計算させるという集中のさせ方と、イ行で終わるという、理にかなった掛 け声なのかもしれない。
4.結論
目つむりのない集合写真を撮影するために導き出された数式は
1+1=2
参照
(※1) Tamami Nakano,Chiho Kuriyama,Toshiyuki Himichi&Michio Nomura:Association of a nicotinic receptor gene polymorphism with spontaneous eyeblink rates
(※2) Nic Svenson,Piers Barnes:Blink-free Photos, Guaranteed :2006 Ig Nobel Prize
(※3)サイト名:keisan, https://keisan.casio.jp/
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